ステークホルダーとの関わり「ステークホルダーダイアログ」(日本)

「ステークホルダーダイアログ」(日本)

有識者との対話2010

デンソーでは、これまで様々なステークホルダーと対話を重ねながら、CSRの取り組みに力を注いできました。この間、持続可能な社会づくりに向けた国際社会の動きは一段と加速し、グローバル企業への責任と期待は、ますます高まっています。こうした中で、デンソーが真のグローバル企業として進化していくには、どのような課題を認識し、行動に結び付けていくべきか。3人の有識者をお招きし、現在、私たちが特に重視しているテーマについて多角的な視点からご意見を伺いました。

■日時・場所
2010年12月27日 デンソー東京支社

■テーマ
今後の事業展開を見据えたリスクとチャンス
【環境保全】
地球温暖化の防止、生物多様性の保全
【人権・労働慣行】
多様性の尊重、労働における基本的人権の尊重
【その他CSR全般】


■ご出席者

後藤敏彦 氏

後藤敏彦 氏
環境監査研究会
代表幹事

1964年、東京大学法学部卒業。損害保険会社で勤務した後、1991年に環境監査研究会の設立に関わる。2002年からGRI日本フォーラム(現NPO法人サステナビリティ日本フォーラム)代表理事。2003年から社会的責任投資フォーラム代表理事・事務局長(現在、会長)。NSC(サステナビリティコミュニケーションネットワーク)代表幹事。地球システム・倫理学会常任理事、環境経営学会理事、経済政策学会・環境法政策学会・保険学会会員、など。共著に『環境監査入門』(1992)、『環境コミュニケーション入門』(2007)、『サステナビリティと本質的CSR』(2009)、「環境 持続可能な経済システム」(2010)、など。

藤井敏彦 氏

藤井敏彦 氏
(独)経済産業研究所
コンサルティングフェロー

1987年、通商産業省(現:経済産業省)入省。94年ワシントン大学でMBA取得。G7サミット、OECD、防衛装備交渉などの国際通商政策、産業再生法起草、緊急経済対策立案などに携わった後、2000〜04年ベルギーの在欧日系ビジネス協議会事務局長、日本機械輸出組合ブラッセル事務局次長を歴任。CSRをはじめ、環境規制、欧州事情などに関する著書・講演・寄稿など多数。

秋山をね 氏

秋山をね 氏
(株)インテグレックス
代表取締役社長

1983年、慶應義塾大学経済学部卒業。青山学院大学大学院修了、ファイナンス修士。米系証券会社にて外国債券のトレーダーを務めた後、2001年に、SRIとCSRの推進を行う(株)インテグレックスを設立、代表取締役に就任。
現職のほか、内閣府 「新しい公共」推進会議委員、東洋経済新報社サステナビリティ報告書賞審査員、社会的責任投資フォーラム(SIF-Japan)代表理事なども務める。


■ファシリテーター

岸本幸子 氏

川北秀人 氏
IIHOE [人と組織と地球の
ための国際研究所]代表

1987〜91年、(株)リクルートで国際採用・広報を担当。その後、国会議員の政策担当スタッフや国際青少年交流NGO「オペレーション・ローリージャパン」の代表を務め、94年にIIHOE設立。非営利組織(NPO)や企業のCSRマネジメント支援を行っている。現在、(特)JEN共同代表理事、日本NPO学会理事、(特)せんだい・みやぎNPOセンター評議員、(財)日本自然保護協会評議員など役職多数。デンソーには2003年発行の「環境社会報告書」以来、継続的にCSRに関する助言を行っている。


環境保全

デンソーは、数ある環境問題の中でも「地球温暖化防止(気候変動の緩和)」と「生物多様性の保護」を社会の期待に応えるべき重要課題と位置づけています。
前者については、クルマ全体のエネルギー効率化を図る「エネルギーマネジメント」をもとに、化石燃料から電気まで多様な動力源に対応する環境配慮製品の開発により、世界中の自動車のCO2排出量を低減する努力を重ねています。同時に、事業活動の中で最大のCO2排出要因である生産部門の「エコファクトリー化」をめざし、特に減産時に効果が高い設備機械の待機電力を削減する「エネルギーのジャストインタイム活動」に注力しています。
後者については、事業所周辺の生態環境をできる限り創業当時に維持・保全・復元するため、各地域における従来の活動を体系づけ、取り組みを強化しています。



テーマ<1> 地球温暖化や生物多様性に、どのように向き合うべきか

有識者の意見 デンソーの対応
これからは大変革の時代。2030年代には枯渇する資源が出てくる可能性もあり、現状の延長はないという前提で、将来の姿を起点にした上での対応(バックキャスティング)を考えるべきだ。鉱物資源の採取では、環境破壊や人権問題(強制労働等)を問われる懸念もあり、バリューチェーン全体をマネジメントする必要がある。 ⇒デンソーは、現状の課題を解決するのは得意だが、将来起ここり得る課題を見つけ、解決していくという点は弱いと感じている。今後、社内でCSRに関する中・長期計画を考える際にバックキャスティングの考え方を取り入れて実施していきたい。
今後「水戦争」がおこると言われるほど水の問題は深刻だが、デンソーではあまり触れられていない。また、CO2削減では、2020年目標を掲げる企業は多いが、「2050 年目標」まで拡大すべきだ。バックキャスティングで環境保全活動を考える必要がある。 ⇒ご指摘のように、世界的に深刻な問題であることから、デンソーが今後どのように関っていくべきかを検討したい。
新事業では、従来のビジネス手法と異なる視点での環境保全を図る必要がある。例えば、生態系サービスの点で問題ないかといった配慮だ。欧州では、バイオ燃料の原料採取で児童労働などの人権問題が潜んでいる可能性からバイオ燃料を輸入制限する動きもある。デンソーは、藻からの燃料生成の研究開発を行っているが、そこでは必ず水への環境配慮が求められる。また、遺伝子組み換えの問題や敷地の外に藻が漏れる等のリスクもある。 ⇒藻からバイオ燃料を抽出する際に考えられるリスクについては、国家プロジェクトの中で産官学が連携しながら調査・研究を実施している。
その中では周辺環境影響評価も専門家の先生が実施している。今後、水などの問題についても LCA(Life Cycle Analysis)の専門家に評価を依頼している。今後も引き続き、国家プロジェクト内で専門家の先生方と共同研究しながら検討していく予定である。
中国では環境報告書のガイドラインが作成され、環境報告書の作成が義務化されると予測される。また、報告書の作成で留意すべき点は、中国での想定読者は投資家や社員ではなく、社会・市民であり、言語は中国語で、報告内容は中国での活動を主に報告する必要がある。 ⇒2010年度に中国でダイアログを開催した際、同様の指摘が 有識者からあった。この点については中国拠点と連携をとりながら対応していく。

人権・労働慣行

デンソーは「人を大切にする経営」を人事理念に掲げ、雇用・人権尊重・労使関係・人材育成などに取り組み、特にデンソースピリットに基づく人づくりに力を注いできました。

デンソーが事業展開を行っている国・地域では、人権への意識・労働慣行・コンプライアンスの認識に違いがある場合もあります。そうした中で、デンソーが人々の期待に応えるには、それぞれの国・地域特性に即した「基本的人権・多様性の尊重」へのより深い認識・理解こそが重要課題と捉え、取り組みの強化を図っています。



テーマ<2> 人権や多様性の尊重をどう理解し、施策に反映していくべきか

有識者の意見 デンソーの対応
グローバル企業として幅広い分野で人権に対する認識を高めていく必要がある。日本では「人権=差別」という狭く偏った認識のもと、人権問題に対応していると思い込んでいる企業が多い。しかし、ISO26000における人権の解釈は幅広く、OECDの「多国籍企業ガイドライン」でも人権保護に関する規定を大幅に改定する予定だ。こうした動きを注視して、地域別の人権問題を把握すると同時に、世界共通の認識を理解すべきだ。 ⇒ISO26000が掲げる人権に関わる課題を自社の活動にどのように落とし込むべきか検討中である。積極的に社外の人々とも対話を重ね、グローバルな視点から課題の背景などもしっかり勉強していく。世界各国・地域の人権問題については、デンソー本社がその実情を十分に把握し、各地域と課題を共有化・解決することが重要と考えている。また、採用・人材育成・制度などで基本的人権をないがしろにしないマネジメントの実践が重要と認識している。
社員の一体感こそ、デンソースピリットを実践する原動力と思うが、人事方針の「One DENSO One HR(人的資源)」とどのように関連付けていくのか。欧米では、企業のビジョンを社員共通の価値観として刷り込ませて一体感を培っているが、「デンソースピリット+CSR」をどう位置付けていくかが重要だ。
他方で、社外との関わり方も重要だ。ISO26000には苦情解決の条項があり、社外からの苦情を解決するシステムを持つ必要があると述べている。「そのようなシステムがあるか?」と聞かれたらどう答えるか。無ければ構築しない理由を回答する説明責任が伴う。例えば、強制的に土地を取り上げた背景のある場所に、デンソーがそれを知らずに工場を建てたら、取り上げられた地域住民の苦情を吸い上げる仕組みがあるか否か。
⇒デンソーでは、デンソースピリットの浸透をグローバルに図っている。ご指摘いただいた点は理解できるので、デンソースピリットとCSRの関係性などについて、今後検討していきたい。 また、ISO26000に関しても、今後情報を入手しながら企業としての対応を検討していく
デンソー基本理念・企業行動宣言・デンソースピリット・社員行動指針など多くの理念・方針を共有するとあるが、誰もが共有できる印象的で強いメッセージが必要だ。現状ではグローバルに展開するには分かりづらく、もう少し整理した方がいい。
デンソースピリットや企業理念などを社内に浸透させるには、全員で考えることが大切だ。理念を自分の仕事に落とし込んだ時にどう理解するかを職場で討議すべきだ。ローカルや現地で、基本理念やスピリットを仕事に置き換えて考えるような地道な作業が必要だ。一方で、理念を共有・実践しているかを人事評価に反映するのも効果がある。そうすることで会社の真剣度が伝わるのではないか。
⇒デンソーでは、以前から国内外のグループ会社に対して、デンソースピリットに関して導入の背景や先人の事例を紹介し、自らの価値観として捉えてもらうべく普及のための活動を行ってきている。更に2011年2月には、再加速させるべくデンソースピリットの具体的な「事例集」を配布し、職場単位で自らの仕事に落とし込んで話し合う場を設けることを検討している。こうした地道な活動を継続していく。
OECD多国籍企業行動指針を採択した国には、相談窓口となる「ナショナル・コンタクト・ポイント(NCP)」が設けられ、多国籍企業が海外進出の際に問題が起きた場合、仲裁が図られる。現在、内容の改訂に向けたドラフトが策定されている。日本NCP委員会では、OECDガイドラインを普及させるため、政府・産業界・労働団体の3者間で積極的に意見交換を行っているが、こうした動きも注視していく必要がある。 ⇒今後、改訂内容を理解した上で、当社への影響や対応方法を検討してきたい。

その他・全般


有識者の意見 デンソーの対応
CSRの取り組みはバリューチェーン全体のマネジメントが重要だ。電子業界ではCSR調達が進み、3年前はメーカーが仕入先に調査票のみを送付していたが、昨年は工場監査を行い、今年は社員寮まで監査した例もある。今後は自動車業界にもこうした動きが間違いなく広がるだろうから、CSR調達の取り組み強化が不可欠だ。 ⇒自動車業界でもCSR調達が加速していると感じている。デンソーは国内展開は推進・強化しているが、海外での取り組みはスタートして間もないため、今後、注力していきたい。
レアアース問題の際に起こった現象として、メーカー⇒一次仕入先⇒二次仕入先へ調達の担保を確認していくと、「なんとかします、大丈夫です」と回答してしまう連鎖があった。「問題がある」と言えないのが、サプライチェーンの怖さだ。サプライチェーンマネジメントは"見える化"が不可欠で、「部品にレアアースが使われているかどうか分からない」という回答は、もう通用しなくなっている。 ⇒レアアース問題は、週1回、役員も参加する対策委員会を開催し、情報の共有化と対策を検討している。ただ、問題が起こった後の緊急対策となっているため、今後はこうした事態に陥らないための未然対策やサプライチェーン全体での"見える化"が課題と認識している。また、従来ならレアアースを使って製品化していたものをレアアースに代わる材料での製品化研究も進めていきたい。
日本は現状を改良するのはうまいが、市場を開拓し、他社・行政・NPOを巻き込んでルール化するのは苦手だ。今後は、ルールづくりにも積極的に関わることが重要だ。デンソーも、要素技術に徹するのではなく、新しい製品を企画し、安心・安全までセットにして、製品やサービスを売っていくようなビジネスモデルを開拓してほしい。
その際には新しい規律が必要となるが、発想段階から行政やNPOなど社外の人々と積極的にコミュニケーションを図り、一緒になって考えていく必要がある。例えば、デンソー自体は水をあまり消費していなくても、他社の水問題の削減技術に貢献していくなどの切り口もある。
⇒デンソーは要素技術は得意だが、商品化したりルールづくりに関わるのは苦手。ただ、今後は、社外の人々と積極的にコミュニケーションを図り、デンソーに足りない部分を指摘いただきながら事業化につなげていきたい。こうしたダイアログに事業部の社員を参加させるようなことも検討したい。
今後のCSRのあり方を考える上で、「Contingency(予期せぬことが起こる偶然性、不慮の出来事)、Imagination(想像力)、ISO26000」の3点がキーワードとなる。
Contingencyでは、問題が起こった時に何を言えるかが重要だ。どんな問題が起こるのか、起こった時にどう対応するのかに対して、理念・原則をもつことが大切だ。Imaginationでは、これから何が問題になるのかについて想像力を働かせること。自社の事業分野だけでなく、社会がどうなるのかについても想像する。
ISO26000は、Imaginationを展開するツールとして良いテキストになるだろう。ISOはガイダンスであって認証ではないものの、日本の産業界がアサインしている以上、入り口もなければ出口もない。義務ではないので違反を問われることはないが、日本から代表者を送って作成に関与した以上、間接的に合意している。つまり、条項への対応が出来ていようといまいと説明責任が課される。ISOをどう理解すべきかが重要だ。
⇒ISO26000の対応については、今後デンソーでは何ができていて、何ができていないかを整理し、ロードマップのようなものを作成しようと考えている。今回いただいたご意見を参考に、活動のレベルアップにつなげていく。
選択と集中による効率的なマネジメントを実践するには、バックキャスティングの発想でマネジメントを展開していく必要がある。そこでは誰とパートナーを組むのかが重要だが、これまでは内部の価値観と合う人と仕事をしていたが、今は外部の人と価値観を共有すべき段階にある。次回のダイアログは、ぜひ現場に近いところで開催し、多くの社員に参加してもらってはどうだろう。 ⇒来年度以降、ダイアログの目的・あり方・活用方法などを検討していきたい。

デンソーからひと言

デンソーがCSR経営に取り組み始めた頃は、「真のグローバル企業への進化」がキーワードでした。それから約5年を経て、売上や人員構成などではグローバル化しましたが、世界中で存在価値を認められる企業として成長できたかと問われれば、まだまだ道半ばというのが実情です。2011年度は新たな長期構想を考えるタイミングでもあることから、本日いただいた貴重なご指摘・ご意見をもとに関係部署と検討し、さらにCSR活動のレベルアップにつなげていく決意です。